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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11122号 判決 1988年6月27日

甲事件原告(乙事件被告) 甲野花子

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 鍛冶良道

同 伊藤愼二

甲事件被告(乙事件被告) 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 椎名麻紗枝

参加人(乙事件原告) 丙川松子

右訴訟代理人弁護士 兒島平

同 清水良二

主文

一  甲事件について

1  甲事件被告は甲事件原告甲野花子に対し、別紙物件目録(二)記載の建物の被告の二分の一の共有持分につき、真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続をせよ。

2  甲事件被告は甲事件原告甲野花子に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を明渡せ。

3  甲事件被告は甲事件原告甲野花子に対し、昭和六〇年五月一〇日から前項の建物明渡済みまで月額金八万円の割合による金員を支払え。

4  甲事件被告は甲事件原告甲野花子との間で、原告甲野花子が別紙物件目録(一)記載の土地につき、別紙賃借権目録記載の賃借権を有することを確認する。

5  甲事件原告甲野花子のその余の請求を棄却する。

6  甲事件原告乙山春子の甲事件被告に対する訴えのうち、別紙物件目録(一)記載の土地賃借権が甲事件原告甲野花子に帰属することの確認を求める部分の訴えを却下し、その余の部分の請求を棄却する。

二  乙事件について、参加人(乙事件原告)の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件については、甲事件原告甲野花子と甲事件被告との間においては、全部同被告の負担とし、甲事件原告乙山春子と甲事件被告との間においては、同被告に生じた費用を二分し、その一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、乙事件については、全部参加人(乙事件原告)の負担とする。

四  この判決は、第一項の3に限り、仮に執行することができる。

事実

(略称) 以下においては、甲事件原告(乙事件被告)甲野花子を「原告花子」と、甲事件原告(乙事件被告)乙山春子を「原告春子」と、甲事件被告(乙事件被告)甲野一郎を「被告」といい、参加人(乙事件原告)丙川松子を「参加人」という。

第一当事者の求めた裁判

(甲事件関係)

一  原告花子の請求の趣旨

主文第一の1、2及び4項同旨並びに「被告は原告甲野花子に対し、昭和五七年六月一日から別紙物件目録(二)記載の建物明渡済みまで月額金一〇万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに建物明渡しと金員支払につき仮執行の宣言

二  原告春子の請求の趣旨

1 被告は原告春子に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を明渡し、かつ昭和五七年六月一日から右明渡済みまで月額金五万円の割合による金員を支払え。

2 被告は原告春子との間で、原告甲野花子が別紙物件目録(一)記載の土地につき、別紙賃借権目録記載の賃借権を有することを確認する。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 第1項につき仮執行の宣言

三  請求の趣旨に対する被告の答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(乙事件関係)

一  参加人の請求の趣旨

1 原告花子が別紙物件目録(一)記載の土地につき、参加人と原告花子間の昭和三八年四月一二日付賃貸借契約に基づく賃借権を有しないことを確認する。

2 原告春子及び被告は参加人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ訴状送達の翌日(原告春子については昭和六〇年一〇月一七日、被告については同年一一月一日)から右明渡済みまで月額金一万八二六〇円の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、原告ら及び被告の負担とする。

4 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する原告ら及び被告の答弁

1 参加人の請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 身分関係

原告春子及び被告は、いずれも訴外亡甲野太郎(以下「太郎」という。)の子であり、原告花子は、太郎の後妻(原告春子及び被告との関係はいわゆる義母)である。太郎は、昭和五七年五月七日死亡した。

2 本件建物の購入

原告花子は、昭和三八年三月八日訴外戊田三郎から、その所有する別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を買い受けて、本件建物の所有権を取得した。

3 建物持分権の負担付死因贈与

(一) 原告花子は、右のとおり本件建物を買い受けたが、昭和三八年五月二四日付で、訴外乙田金物株式会社から、中間省略により、原告両名及び被告の三名への所有権移転登記(共有持分各三分の一)をした。これは、原告花子が原告春子及び被告に対し、血縁関係のない同人らに老後の扶養を依頼する趣旨で、少なくとも毎月の賃料相当額程度の金員を送金するなどして原告花子を扶養するとの負担付で、かつ原告花子の死亡を条件として、本件建物の各三分の一宛の共有持分権を贈与したことによるものである。

(二) 原告花子は、昭和五四年五月五日、原告春子及び被告に対し、右と同様の趣旨で、本件建物の自己の持分三分の一の半分宛を同様の負担付の死因贈与をし、同年五月二一日付で持分権の移転登記をした。

4 負担の不履行及び背信行為

原告春子は、昭和四六年五月二九日から昭和五四年一二月二七日までの間、太郎及び原告花子のため、少なくとも五五〇万円以上の生活費を負担し、太郎が死亡した後は、原告花子を自宅に引き取り、同原告が昭和五七年六月に喘息及び老衰のため入院した後も、同原告の一切の生活費及び入院費を負担している。

これに対し、被告は、次のとおり、扶養義務をほとんど尽くしていないばかりか、負担付死因贈与契約の趣旨に反する行為を繰り返している。

(一) 被告は、昭和五四年五月以降、太郎及び原告花子の生活費として金三四万円を負担しただけである。

(二) 被告は、太郎が死亡した昭和五七年五月七日の直後に原告花子から預かった同原告の預金通帳(預金残高合計一八五万七二七七円)及び印鑑を返還しない。

(三) 原告花子は、昭和五六年春ころ、本件建物を売却して東京都内に老人ホームを求める計画を立て、原告春子及び被告も、右趣旨の下に、本件建物を売却することを承諾し、各自金五〇万円宛を出し合って、本件建物を改築した。しかるに被告は、同年五月末ころから本件建物の使用を開始し、昭和五七年七月には住民票もここに移し、家族とともに移り住み、現在に至っている。しかも昭和五七年以降の使用料も支払っていない。

(四) 原告らは、再三にわたり、以上のような問題を正常化するよう申し入れてきたが、被告はこれに応じない。そこで、原告らは、被告を相手として、扶養料請求等の家事調停の申立てをしたが(昭和五七年(家イ)第六四七二号)、被告は具体的な話合いに応じようとせず、結局、昭和五九年一月二〇日不調に終った。

(五) 前記預金通帳について、被告は、右調停の家事審判官から、「他人の通帳を持っている権限はない。」旨強く叱責され、裁判所外で話合いをするよう勧告された。そこで、原告花子が被告に対し、預金通帳の問題に限って解決したいと申し入れたところ、被告は、「原告花子が姻族関係終了の届をし、原告春子と養子縁組をしたらどうか。」などと理不尽な条件を提示した。

(六) 原告花子は、当座の生活費及び入院費を得るため、やむなく被告を相手として、東京地方裁判所に預金債権確認の訴えを提起した(昭和五九年(ワ)第九八二一号)。しかるに、被告は、当初この訴訟が原告花子の真意に出たものではないなどと争ったため、原告花子は事情説明のため、裁判所に出頭することを余儀なくされ、疲労と興奮のため病状が悪化した程である。

5 負担付死因贈与契約の解除又は取消し

(一) 原告花子は、昭和六〇年五月九日、前記訴訟事件の口頭弁論期日において、被告に対し送達された準備書面をもって、前記のような負担の不履行及び背信行為を理由として、負担付死因贈与契約を解除する旨の意思表示をし、右契約を撤回する旨を表示した。

(二) 仮に、右意思表示がなかったとしても、原告花子は本件の訴状において、同様の意思表示をした。

(三) また、仮に、そのように認められないとしても、原告花子は、本件の昭和六三年五月三〇日に行われた口頭弁論期日において、負担付死因贈与契約を取り消す旨の意思表示をした。

6 不法占拠による損害

(一) 被告は、昭和五六年五月末以降、本件建物を占有して原告花子の使用を妨害し、遅くとも一年後の昭和五七年六月一日以降原告花子に対し、賃料相当額の損害を与えているが、本件建物の賃料相当額は、月額金一〇万円を下らない。

(二) 仮に、原告花子のした贈与が死因贈与でなかったとすると、本件建物は、昭和五四年五月五日以降原告春子及び被告の共有となっていたところ、前項の解除により、これが原告花子と原告春子の共有となった。しかるに、被告がその占有を継続していることにより、原告春子は遅くとも昭和五七年六月一日以降、原告花子は遅くとも昭和六〇年五月一〇日以降、それぞれ少なくとも月額金五万円の損害を被っている。

7 借地権の帰属

(一) 本件建物の敷地である別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和三八年四月一二日、原告花子が参加人から、次の約定で賃借したものである。

目的 非堅固建物所有

期間 昭和三八年四月一二日から昭和五八年四月一一日まで

賃料 月額一三〇〇円

(二) その後、賃料は増額されて、最終的には月額一万八二六〇円となり、右賃貸借は昭和五八年四月一二日法定更新された。

(三) したがって、原告花子は本件土地につき、別紙賃借権目録記載の賃借権を有しているが、被告は、右賃借権の全部又は少なくともその二分の一の準共有持分権を有していると主張している。

8 結論

よって、原告花子は、本件建物の所有権に基づき、被告に対し、その有している本件建物の二分の一の共有持分につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続及び本件建物の引渡しを求めるとともに、昭和五七年六月一日以降右明渡済みまで月額金一〇万円の割合による使用料相当損害金(予備的に、昭和六〇年五月一〇日以降右明渡済みまで月額金五万円の割合による使用料相当損害金)の支払い並びに原告花子が本件土地について別紙賃借権目録記載の賃借権を有することの確認を求める。

また、原告春子は、原告花子のした贈与が死因贈与でなく、被告が本件建物につき共有持分権を有するとされた場合、本件建物に対する自己の共有権に基づき、被告に対しその引渡しと昭和五七年六月一日以降右明渡済みまで月額金五万円の割合による使用料相当損害金の支払い並びに原告花子が本件土地について前記同様の賃借権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、本件建物がもと戊田三郎の所有であったこと及びそのころ同人との売買がなされたことは認めるが、その余は否認する。本件建物の購入資金は、太郎が出したものであって、本件建物を戊田三郎から買い受けたのは太郎である。

3 同3の事実は、登記簿上の記載が原告ら主張のようになっていることは認めるが、その余は否認する。太郎が当初、本件建物を原告ら及び被告の三名名義としたのは、太郎には被告と原告春子のほかに、愛人丁原竹子に生ませた子供が三人もいたため、太郎の名義にしておくと、自分の死後、相続問題で紛争が生ずることを懸念したためで、太郎は、生前、原告ら及び被告に本件建物を贈与したものである。また、昭和五四年五月に原告ら主張のような原告花子の持分(三分の一)の移転登記がなされたのは、同原告には、太郎と結婚する前の夫との間に子供が一人いることがわかり、同原告の死亡後相続問題で紛争が起こることを回避するためであった。

4 同4の冒頭の事実は否認する。原告春子は、太郎の生前に少なくとも五五〇万円の生活費を負担したと主張するが、原告春子が昭和四六年五月から昭和五四年一二月まで太郎に送金していた金員の趣旨は、原告春子が不動産の購入資金として太郎から借用した金三〇〇万円の返済である。

同4の(一)ないし(六)の事実については、(二)の事実、(三)のうち、被告が昭和五四年五月末ころから本件建物の使用を開始し、その後住民票も移して家族とともに移り住んでいること、(四)のうち、家事調停の申立てがあったが不調となったこと、(五)のうち、被告が原告ら主張のような提案をしたこと、(六)のうち、原告花子が東京地方裁判所に預金債権確認の訴えを提起し、事情説明のため裁判所に出頭したことは認めるが、その余は否認する。

5 同5の事実のうち、(一)記載の準備書面を受領したことは認めるが、その余は否認する。

6 同6の事実は否認する。

7 同7の事実のうち、賃借権者が原告花子だけであるとの点は争うが、その余は認める。

8 同8の主張は争う。

(乙事件)

一  請求原因

1 参加人は、その所有する本件土地を、昭和三八年四月一二日原告花子に対し、次の約定で賃貸する旨の契約を締結した。

(一) 目的 非堅固建物所有

(二) 期間 昭和三八年四月一二日から昭和五八年四月一一日まで

(三) 賃料 月額一三〇〇円

(四) 特約 賃借人は、賃貸人の作成した承諾書なしに、賃借土地の転貸又は借地権の譲渡ができない。

2 その後、賃料は増額されて、最終的には月額金一万八二六〇円となり、土地の使用が継続されている。

3 ところで、原告ら及び被告は、昭和三八年五月二四日、本件土地上にあった本件建物を前の所有者・乙田金物株式会社から買い受けたとし、持分各三分の一宛の所有権移転登記を経由した。すなわち、右三名は、本件建物を共有することにより、その敷地である本件土地を共同占有しているが、これは原告花子から被告及び原告春子に対し、本件土地の賃借権を譲渡したか又は転貸したものである。

4 さらに原告花子は、昭和五四年五月五日、原告春子及び被告に対し、原告花子の持分三分の一につき、その半分宛(六分の一宛)を贈与をし、同年五月二一日付で持分権の移転登記をした。これにより、原告花子は本件土地に対する借地権の持分を全部被告及び原告春子に譲渡し又は転貸したことになる。

5 しかしながら、以上の借地権の譲渡又は転貸について、参加人は承諾を求められたことはなく、承諾したこともない。そこで、参加人は原告花子に対し、本件の訴状をもって、本件土地の賃貸借を解除する旨の意思表示をし、右訴状は原告花子に対し昭和六〇年一〇月一六日送達された。

よって、参加人は、原告花子に対し、原告花子が本件土地につき賃借権を有しないことの確認を求め、被告及び原告春子に対し、所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地を明渡すべきこと及び訴状送達の翌日(被告に対しては昭和六〇年一一月一日、原告春子に対しては昭和六〇年一〇月一七日)から明渡済みまで月額金一万八二六〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する原告らの認否及び抗弁

(認否)

1  請求原因1の事実は、(四)のような特約があったことは否認し、その余は認める。もっとも、契約書には右のような特約の文言が存在するが、これは例文である。

2  同2ないし4の事実は認める。

3  同5の事実は否認する。

(抗弁)

1  参加人と原告花子とが本件土地につき賃貸借契約を締結したのは昭和三八年四月一二日であり、その約一か月後に原告ら及び被告名義で本件建物を取得したのであるが、そのころ参加人は、本件建物を三名名義とすることを認めた。すなわち、参加人は、原告花子が原告春子及び被告に転貸することを承諾した。

2  仮に事前の承諾がなかったとしても、その後長期にわたり何らの疑問もなく地代の授受が行われていたのであるから、参加人は転貸を事後的に承諾した。

3  本件建物の名義が参加人主張のようにされた事情は、甲事件の請求原因3で主張したとおりであって、賃貸人である参加人との信頼関係を何ら損なうものではない。参加人の解除は権利の濫用である。

4  本件建物が原告ら及び被告名義に所有権移転登記されたのは、昭和三八年五月二四日である。したがって、仮に解除権が発生したとしても、そのときから一〇年の経過により、解除権は時効消滅した。本件建物の名義が原告春子及び被告となったのは、その後の昭和五四年五月二一日であるが、すでに解除権が消滅している以上、三名の名義が二名となったとしても、解除権は発生しない。

三 請求原因に対する被告の認否及び抗弁

(認否)

1  請求原因1の事実は、(四)のような特約があったとの点及び賃借人が原告花子だけであつたとの点は否認し、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、本件土地の賃借権が原告花子から原告春子及び被告に譲渡又は転貸されたとの事実は否認し、その余は認める。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実は否認する。

(抗弁)

1  本件建物は、原告花子の夫であり、原告春子及び被告の父である太郎が戊田三郎から買い受けたものである。それを原告ら及び被告の三名名義としたのは、太郎には被告と原告春子のほかに、非嫡出子がいたため、太郎の死後相続問題で紛争が生ずるのを恐れ、妻である原告花子と嫡出子である原告春子及び被告の名義としたのである。参加人は、昭和三八年四月一二日賃貸借契約を締結するに際し、そのことを承知していた。

2  仮に事前の承諾がなかったとしても、その後長期にわたり何らの疑問もなく地代の授受が行われていたのであるから、参加人は転貸を事後的に承諾した。

四 抗弁に対する参加人の認否及び主張

1  原告ら及び被告の抗弁事実はすべて否認し、主張は争う。

2  参加人は、昭和五七年ころ、原告花子から突然、賃貸借の更新を求める旨の内容証明郵便を受領した。そこで登記簿を調べてみると、本件建物の名義人が原告花子でないことが判明したのである。その後、参加人は、原告ら及び被告と更新の話しをしたが、原告らと被告との間が紛争状態となって、参加人としては誰を相手として話しをすればよいかも分からず、更新の手続も進められない状態である。このように、原告らと被告との争いを賃貸人の関係にまで持ち込んで、解決しないまま放置するというのは、賃貸人を無視した背信行為である。参加人としては、もはやこのような状態は受忍できない。

第三証拠《省略》

理由

第一甲事件と乙事件との関係について

甲事件の原告らは、原告花子が本件土地の借地権者であるとし、被告に対しその確認を求めているところ、参加人は、本件土地の所有者であって、右の借地権そのものが不存在であるとし、民事訴訟法第七一条に基づく独立当事者参加の方式により、原告ら及び被告を相手方として乙事件の請求を行っていることが、参加人の昭和六〇年九月一八日付訴状の記載により明らかである。しかしながら、参加人は、右のような甲事件の原告らの被告に対する訴訟の結果いかんに関わらず、原告ら又は被告に対し、本件土地の賃借権の不存在を主張し得るものと解されるから、参加人は、甲事件の「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキ第三者」には該当しないものというべきである。したがって、同条による参加は許されないが、裁判所は、独立当事者参加であるとの当事者の申立てに拘束されるものではなく、参加人の本件申立ては、甲事件の当事者を被告とする新訴の提起と解することができるので、このことを前提として、以下判断する。

第二甲事件のうち原告花子の請求について

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2のうち、本件建物がもと戊田三郎の所有であり、昭和三八年に同人を売主とする売買が行われたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によると、右売買の契約書上の買主は原告花子とされ、売買代金の領収証もすべて原告花子宛になっていること及び本件建物の敷地の賃貸借契約においても原告花子が借主として締結されていることが認められ、これらの事実に《証拠省略》を総合すると、本件建物は、太郎が妻である原告花子に贈与する趣旨で資金を出し、原告花子が買主となって、昭和三八年三月八日戊田三郎からこれを買い受けたものと認めるのが相当である。よって、右売買により、原告花子は本件建物の所有権を取得した。

三  負担付死因贈与契約(請求原因3)について

1  ところで、本件建物の登記簿上は、昭和三八年五月二四日付で乙田金物株式会社から、中間省略により、原告両名と被告の三名への所有権移転登記(共有持分各三分の一)がなされていること及びその後の昭和五四年五月二一日付で、原告花子の持分三分の一の半分宛につき、原告春子及び被告への持分権移転登記がなされていることは、当事者間に争いがない。

2  そこで考えるに、《証拠省略》によると、本件建物には、原告花子が取得後間もなくから、太郎及び原告花子夫婦が居住していたが、昭和四五年ころ、同人らは千葉県鴨川市所在の簡易保険加入者の施設「潮風荘」に移り住むようになったこと、その後本件建物は原告花子が賃貸人となって第三者に賃貸されるようになったが、家賃は被告において取り立て、その中から地代その他の経費を差し引いて太郎宛に送金していたこと、このような送金は昭和五六年ころまで行われ、当時の送金額は月額八万円であったこと、この間太郎は、原告春子及び被告に対し、本件建物が「甲野花子、甲野一郎、乙山春子の共有になっておりますが、私共弐名は何等権利はありませんので、必要な場合は何時なりとも印鑑証明書を添えて必要書類に捺印致します」と記載された文書を原告花子宛に差し入れさせていること等の事実が認められる。これらの事実によると、本件建物の所有権は、依然として原告花子に保留されていたものということができる。そして、この事実に前記登記簿の記載及び《証拠省略》を総合すると、太郎が資金を出して原告花子のため購入した本件建物につき、昭和三八年五月二四日付で前記のとおり三名への所有権移転登記(共有持分各三分の一宛)をした趣旨は、原告花子の名義にしておくと、同原告とは法律上親子関係のない原告春子及び被告にはこれが相続されない結果となることを慮り、かつ依然として原告花子の所有であることをも示すため、原告花子の死亡を条件として、右三分の一宛の持分を原告春子及び被告に贈与するにあったものであり、これが原告花子の意思であったものと認めるのが相当である。

3  また、《証拠省略》によると、昭和五四年五月に前記のとおり原告花子の持分三分の一の半分宛の持分権移転登記がなされたのは、原告花子には太郎と結婚する前の夫との間に子供が居り、この子供がそのころ原告花子を訪ねて来たことがあったため、原告春子が、将来の原告花子の相続の際に同原告の三分の一の持分をめぐって紛争が生ずるのを懸念し、太郎に相談し、その結果、右のような登記がなされたことが認められる。この事実に右1、2の事実を合せると、この登記は前項の趣旨をさらに徹底させ、原告花子の実の子供にはこれを承継させないとの意図の下に、名義上残っていた原告花子の持分についても、原告花子の死亡を条件として原告春子及び被告に贈与したものと認めるのが相当である。

4  原告花子は、この死因贈与が負担付であったと主張する。しかしながら、この点について、《証拠省略》で原告花子が述べているところは、「どっちみち若い者に世話にならなければならないのでそうしたのかもしれません。」というのであって、暖昧であり、このような供述のみから右贈与が負担付であったとまでは認められない。また《証拠省略》からは、原告花子の主観的な意図を推察することはできるものの、贈与の当時、このことが明示されていたとの証拠もないのであって、他に本件の全証拠を検討しても、右贈与が負担付であったこと、仮に負担付であったとしても、その負担の内容が具体的にいかなるものであったのかを明確に認めるに足りる証拠がない。

四  負担付死因贈与の解除の主張について

1  原告花子は、負担付死因贈与を解除したと主張するが、死因贈与については、遺贈の規定に従うものとされており(民法第五五四条)、双務契約に関する民法の規定は適用されない。そして準用される、遺贈の規定の中には、遺言の取消しに関する民法第一〇二二条(その方式に関する部分を除く。)の規定にも含まれると解される。

2  そこで次に、取消しの事実について考えるに、《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

(一) 太郎及び原告花子は、昭和五六年ころ、本件建物を売却して東京都内に老人ホームを求める計画を立て、原告春子と被告も、右趣旨の下に、本件建物を売却することを前提として、各自金五〇万円宛を出し合って、本件建物を改築した。しかるに被告は、売却した場合の譲渡取得税を安くするには住んでいた方がよいと称して、同年五月末ころから本件建物の使用を開始し、昭和五七年七月には住民票もここに移し、家族とともに移り住み、現在に至っており、しかも昭和五七年以降の使用料も支払っていない(被告が居住するようになり、住民票も移したことは当事者間に争いがない。)

(二) 被告は、太郎が死亡した昭和五七年五月七日の直後に原告花子から預かった同原告の預金通帳(預金残高合計一八五万七二七七円)及び印鑑を返還しない。そこで、原告らは、被告を相手として、扶養料請求等の家事調停の申立てをしたが(昭和五七年(家イ)第六四七二号)、結局昭和五九年一月二〇日不調に終り、原告花子は、被告を相手として、東京地方裁判所に預金債権確認の訴え(昭和五九年(ワ)第九八二一号)を提起した(この項の事実は当事者間に争いがない)。

(三) 以上のようなことがあって、原告花子としては、昭和五八年六月ころには、被告に対し、本件建物を返してもらいたいとの意思を固めるに至り、右昭和五九年(ワ)第九八二一号事件の昭和六〇年五月九日行われた口頭弁論期日において、解除の意思表示をした(その準備書面を被告が受領したことは当事者間に争いがない。)。

以上に事実によれば、原告花子は昭和六〇年五月九日には、被告に対し、贈与を解消して本件建物を返してもらいたい旨、すなわち死因贈与取消しの意思表示をしたものと認めるのが相当である。

五  不法占拠による損害について

1  被告が昭和五六年五月末以降本件建物を占有していることは前記のとおりであるが、その占有は、前記のとおり、本件建物を処分する計画の一過程として始められたのであり、このこと自体については原告花子の承諾がなかったとはいい切れない。しかし、原告花子は、昭和六〇年五月九日には、被告に対し死因贈与取消しの意思表示をしたのであるから、遅くとも同年五月一〇日以降の占有は、正当な権原なく原告花子の使用を妨害しているものというべきである。

2  次に、使用料相当額について考えるに、原告花子は、これが月額金一〇万円を下らないと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。もっとも、《証拠省略》によると、昭和四六年四月当時、原告花子は本件建物を訴外甲田五郎に対し月額七万六〇〇〇円で賃貸していたことが認められ、また昭和五六年ころまで行われていた賃料の送金額が月額金八万円であったことは、前記のとおりである。そうすると、現在の本件建物の賃料相当額は、少なくとも月額金八万円を下らないものと認めるのが相当である。

六  借地権の帰属について

1  請求原因7の事実は当事者間に争いがない。

2  被告は、賃借人は原告花子だけではないと主張するが、《証拠省略》によれば、参加人が昭和三八年四月一二日本件土地を賃貸した相手は原告花子であり、その後賃貸人との関係においては、賃借人が変更されることなく二〇年が経過したことが認められるのであって、右の主張は何ら理由がない。

七  まとめ

以上示したところによれば、原告花子は被告に対し、本件建物の所有権に基づき、被告の有している二分の一の共有持分権につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続及び本件建物の引渡しを求めることができるとともに、遅くとも昭和六〇年五月一〇日以降右明渡済みまで月額八万円の割合による使用料相当損害金の請求権を有しており、また、原告花子は本件土地について別紙賃借権目録記載の賃借権を有していることの確認を求める利益がある。

第三甲事件のうち原告春子の請求について

一  原告春子の本件請求のうち、本件建物の引渡し及び損害賠償を求める部分は、本件建物の共有権及びこれが侵害されていることによる損害賠償請求権によるものであるから、論理的には、原告花子の請求と矛盾するものではないし、両者は二者択一の関係に立つものでもない。しかしながら、原告春子は、本件建物の持分につき原告春子が原告花子から受けた贈与は、被告の場合と同様に負担付死因贈与であると主張しているのであるから、原告春子は、自らの共有権取得の効力は、いまだ発生していないことを自認しているのであり、しかもこれが、死因贈与であることは、前示のとおりである。してみると右請求は、その余の点を判断するまでもなく、失当であるといわざるを得ない。

二  また原告春子の本件請求のうち、本件土地の賃借権が原告花子に帰属することの確認を求める部分は、他人間の権利関係の存否の確定を求めるものであり、原告春子は自らに賃借権が帰属していると主張しているわけではない。したがって、原告春子にはかかる請求をする訴えの利益はないものというべきである。

三  よって、原告春子の本訴請求中、賃借権が原告花子に帰属していることの確認を求める訴えの部分は、不適法として却下し、その余の部分の請求は失当として棄却すべきである。

第四乙事件について

一  請求原因1の事実は、(四)の特約の点を除き、当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、右賃貸借契約には「賃借人は、賃貸人の作成した承諾書なしに、賃借土地の転貸又は借地権の譲渡ができない」との特約がなされていたことが認められる。

被告は、賃借人は原告花子だけではないと主張するが、かかる主張が採用できないことは第二の六において示したとおりである。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがない。したがって、本件土地の賃貸借は、昭和五八年四月一一日の期間満了により、法定更新された。

三  請求原因3の事実は、参加人と原告春子及び原告花子との間においては争いがない。

また、参加人と被告との間においては、昭和三八年五月二四日になされた持分の名義移転が賃借権の譲渡又は転貸となるとの点を除き、争いがない。そして、右の名義移転は、少なくとも外形的には、原告花子が本件建物の敷地の賃借権の一部譲渡又は転貸をしたかのような様相を呈しているものということができる。

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》によると、参加人が本件建物の所有名義人が変わっているのを知ったのは、期間満了の前年ころであったことが認められ、その間、参加人が本件建物の敷地の賃借権の一部譲渡又は転貸につき承諾したと認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、本件建物の持分の移転登記がなされた趣旨は前認定のとおりであって、外形的には確定的な持分の移転がなされたかのように見えるものの、その実質においては死因贈与と見るべきものであり、その相手方は、原告花子の義理の子供という関係に立つものである。しかも、《証拠省略》によると、土地の賃料は、当初は太郎又は原告花子が参加人方に持参して支払っていたが、太郎及び原告花子が千葉県鴨川市に転居した後は、被告においてこれを持参していたこと、更新の時期を迎えた昭和五八年四月ころ、原告春子及び原告花子が参加人方に挨拶に行った際の参加人の対応は、本件建物の名義が変更されていることについては取り立てて異議を述べることもなかったこと、参加人が不信の念を持っているのは、そのこと自体よりも、親族関係者の争いに賃貸人が巻き込まれ、更新料の交渉も進展しない状態に放置されていることにあること等の事実が認められる。これらの事実によれば、本件建物の敷地の賃借権の一部譲渡又は転貸がなされたかのような外観を呈してはいるものの、いまだ賃貸借における信頼関係が破壊された状況にあるものとはいえないと認めるのが相当である。参加人が不信を募らせている点については、原告ら及び被告の参加人に対する対応が拙劣であって、三者間の紛争を賃貸人との関係に持ち込んでいるとの非難も当っていないわけではないが、このことは、本件において原告らと被告との紛争が解決することによって、自ら解消される性質のものというべきものであるから、このことをもって、賃貸借における信頼関係が失われたとするには足りない。

してみると、賃借権の一部譲渡又は転貸を理由とする解除権の行使は許されない。

五  参加人の本訴請求は、本件の訴状でした解除の意思表示が有効であることを前提とするものであるところ、右に述べたところによれば、解除の効力を肯定することはできないから、結局、参加人の請求は理由がない。

第五結論

以上のとおりであるから、甲事件の原告花子の請求は、本件建物の所有権の二分の一の共有持分権につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続と本件建物の引渡し及び昭和六〇年五月一〇日以降明渡済みまで月額八万円の割合による使用料相当損害金の支払い並びに原告花子が本件土地について別紙賃借権目録記載の賃借権を有していることの確認を求める限度において認容するが、その余は失当として棄却し、甲事件の原告春子の本訴請求中、賃借権が原告花子に帰属していることの確認を求める訴えの部分は、不適法として却下し、その余の請求は理由なしとして棄却すべく、また乙事件の参加人の請求は理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条の規定をそれぞれ適用し(なお、建物明渡しについての仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎)

<以下省略>

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